お城から5分くらい。丹波篠山で天然酵母パンを作る大元さん
朝9時の兵庫県丹波篠山市。
古い町家や蔵が並ぶ街並みの中で、焼き立てのパンのいい香りが漂います。
香りは篠山城から5分程歩いたころの、今回の訪問先でもある「白殻五粉(しろからごふん=城から5分)」から。
店主の大元さんがパンと関わりがあってかつ覚えやすいように、と名付けた洒落っ気のあるパン屋さんです。
パン屋になるとは思っていなかった。大元さんを魅了した天然酵母のパン
白殻五粉の店主、大元さんは元々イーストの香りがするパンが苦手だったそうです。
「パン屋さんになるとは思ってもいなかった」という大元さんがパン作りに目覚めたきっかけは前職での経験。
パン作りを教えなければならず、いろいろなパン作りを調べていく中で出会ったのが、ドライフルーツからできる天然酵母を使ったパンでした。
「苦手だったパンがこんなにおいしいなんて!」天然酵母パンを初めて食べたとき、そのおいしさに感銘を受けたことは、今になっても鮮明に覚えているそうです。
そして何度か作っていくうちに、もっと自分でこだわって作ってみたいという気持ちが大きくなっていきました。
独立を決め、店舗を構える場所に悩んでいた時に、たまたま通りかかった場所がこの丹波篠山市。
いくつもの偶然が重なり、この場所で天然酵母のパン屋さん、白殻五粉をオープンしました。
天然酵母のパンはよくパサパサしているものが多いイメージですが、大元さんのパンはハードパンでもパサつかず、クロワッサンやメロンパンはふわふわ。
大元さんのパンにはいくつものこだわりが詰め込まれています。
妥協しない。だからおいしい。
素材、発酵時間、それに焼き加減。
気にすることはたくさんあれど、おいしいパンを作るために必要なことには、どれも妥協しません。
素材は大元さん自身が納得したものを。
素材にはこだわって、オーガニックのものや、地元丹波篠山産のものなどを使用します。
「いいな」と思える素材に出会うために、情報収集などは怠らず、アンテナは高く。
素材探しのために大元さん自身が、遠い場所へ足を運ぶこともあります。
パン作りに使用する酵母は自家製酵母を。
大元さんが作る酵母は2種類あります。
オーガニックのレーズンで作る果実酵母と、地元丹波篠山産のお米と岡山県産の玄米麹から作る酒種酵母です。
天然酵母はとても繊細。
発酵するための温度管理や、空気に触れされる時間などもとても細かく気にされています。
木造建築の店舗を選んだことも、酵母が木造のほうがつきやすく元気に育つ、という理由から。
パンに欠かせない酵母を手塩にかけて育てています。
そして、レーズン酵母と酒種酵母では特徴がそれぞれ違うので、酵母の違いを楽しむことができるのも大元さんのパンならでは。
果実酵母はもっちもちブールやハード系のパンに、酒種酵母はあんパンなどの菓子パン系に使っています。
ココノミでどちらも取り扱いしていますので、ぜひ食べ比べてみてください。風味の違いにきっと驚くと思います。
パン生地の発酵、焼き時間も丁寧にじっくりと。
一般的に、パン生地の発酵にかかる時間は2~3時間と言われています大元さんが作るパンの中には、発酵に10時間程度かかるものも。
この10時間という時間は、生地を熟成させ、天然酵母の風味を引き出す為には必要です。
焼き時間にも注意し、水分量が少なくなりすぎないように気を付けています。
酵母作りから、パンが焼きあがるまでになんと1週間。
天然酵母でもおいしいパンを届けたい想いで、どんなに手間と時間がかかっても、その努力は惜しみません。
天然酵母のパンとお客様に向き合い続けてきた15年間
2006年にお店を構えて早15年。
毎日こつこつと作り続けてきました。
現在は閉店時間前にパンが売り切れてしまうこともある白殻五粉。
しかし、オープンしてから1年目の冬は人通りも少なく、売り上げが伸びず、苦労したこともあったそうです。
そこで、ネット販売を始めたり、イベントや百貨店の催事へ出店したりすることで、少しずつ、でも確実に、ファンを増やしていきました。
ホームページも当初から数えて3回リニューアルしており、お客様にとって一番買いやすく、かつ白殻五粉のこだわりが伝わるホームページはどういうものなのかを常に考えています。
「パンの種類も今では30種類程度まで増え、お客様から「卵をたっぷり使ったパンが欲しい」
「塩を使っていないパンが欲しい」
などの要望にも積極的に応えています。最近は大豆粉100%のパンを作ったそうです(ネット販売限定)。
要望をいただいたら試作して、納得してもらったうえで買ってもらう。
これもおいしいパンを食べてほしいという強い想いから。
実際にお客様の声から生まれたパンは10種類にもなります。
お客様とのやり取りはもちろん増えますが、真摯に向き合うことで、「白殻五粉の人」ではなく「白殻五粉の大元さん」が信頼されているのだと思いました。
白殻五粉のこれからと大元さんの想い
今まで数多くのパンにトライしてきた大元さん。
今後はパンとセットになるような焼き菓子を作ることも考えているそうです。
また、現在も地元の食材を使ってパンを作ってはいますが、生産者同士のつながりも広がってきていることから、さらに丹波篠山産の食材を活かしたパンも考案中。
パンの種類が増えることを心待ちにしている方は多いのではないでしょうか。
「今のご時世は難しいかもしれないけれど、いつかお店に来てくれたら嬉しいですね」と笑う大元さん。
お客様がパンを目の前で買ってくれる姿は、やりがいを感じる瞬間の一つでもあるようです。
また、実店舗に足を運んでもらいたい気持ちは強く、丹波篠山に遊びに来るきっかけのひとつとなって、町が賑わう手助けをできたら。とお話ししてくれました。
今日も白殻五紛からはおいしそうな焼き立てパンのいい香りが漂います。
こだわりがぎゅっと詰め込まれた、でもとてもやさしい味わいのパンと、大元さんのあたたかい笑顔にまた会いに行きたくなる、そんな素敵なパン屋さんでした。
ほうもんうらばなし
白殻五紛のパンは時間が経っても熟成した味を楽しめますが、「焼き立てを再現したい!」という方もいるのではないでしょうか。
大元さんにパンをおいしくいただくコツを教えていただきました。
・カットするパン(食パン・ブール・フランスパン・カンパーニュ)
お好みの厚さにカットし、焼く面に1回霧吹きをします。
予熱したトースターで約2分焼いてできあがり。(霧吹きをした水分が乾くくらいが目安です。)
・カットしないパン(菓子パンなど小さいパン)
パンの表面に3回霧吹きをします。
予熱したトースターで約1分焼いてできあがり。
また、大元さんおすすめの食べ方についてもご紹介。
・もっちもちブールはスパイシーなカレーと一緒に
カレーの辛さがシンプルなパンの風味をぐっと引き立たせてくれます。
・フランスパンはオリーブオイルと塩をかけて焼く
こちらは塩がフランスパンの味を引き立たせるのに一役買ってくれます。
常連さんからも人気の食べ方だそうです。
どれも簡単に試せるものばかり。ぜひ一度お試しください。
【天然酵母のパン屋さん白殻五粉】
〒669-2326
兵庫県丹波篠山市小川町2
営業時間:10:00~17:00(売り切れ時は閉店)
火曜・水曜定休日(祝日は営業)
(訪問日 2021/3/22 撮影・文 船橋咲希)