喜んでもらいたいから、手間を惜しまず、泥臭く。愛知県の吉田園さん
愛知県田辺市。豊橋駅から海沿いを走った先に、とてものどかな街があります。
この場所で農業を営む、吉田園の吉田さんをご紹介します。
吉田さんは、農家の家に生まれ育ち、ご家族で農業を営む生粋の農家さん。無農薬なだけでなく、レストランや著名人にも重宝される質の高いこだわり野菜を育てておられます。
つい先日、日本テレビの満天☆青空レストランでも紹介された、実力派です。
火事で育てていた観葉植物が全消失。残ったニラから始まった、吉田さんの野菜作り。
吉田家で農業を始めたのは、お父さんでした。養豚場を営むお家に生まれながらも、次男だった為に結婚を機に農業をスタート。農業と言っても野菜ではなく、観葉植物がメインだったそうです。(この地域はなんと、鉢物のアジサイの出荷量がかつて日本一だったんだとか。)
野菜は、その傍らでニラを育てている程度でした。
しかし残念な事に、6年前に火事によって観葉植物のハウスが全て消失。でも唯一残ったのが“ニラ”でした。
この事をきっかけに “野菜”の農業に切り替えたのだそうです。
『野菜を作れってことかなと。』そう話す吉田さんは明るくて、大変だった様子を感じさせないおおらかさがありました。
野菜ソムリエサミットでも認定。絶対的においしい、吉田さんの野菜。
吉田さんのお野菜のおいしさは、公式に認定されています。
例えば、ほうれん草。
野菜ソムリエサミットという、野菜ソムリエによる「野菜・果物とその加工品の品評会」があり、日本ではじめて、“ほうれん草”でこのサミットにて受賞しました。
その事をきっかけに『日本で一番おいしいほうれん草』として評判が高まり、メディアにも取り上げられるように。
その後も、日本で唯一ワイルドルッコラで受賞するなど、品質、食味の良さは折り紙付き。
吉田さんの野菜の魅力は、その安全性の高さにもあります。
野菜に含まれる硝酸塩という成分。少ない方が体には優しいのですが、吉田さんのニラは通常の1/10と、驚異的な数値を記録しています。検査を依頼した機関からは『このニラすごいんじゃないか』と話題にもなったそう。
そのおいしさと安全性の秘密は“土”にありました。
『まず土から育てる。』土壌マイスターも驚く、土壌の完成度。土へのこだわり。
吉田さんの一番のこだわりは、なんといっても土作り。
使っている堆肥は、吉田園さんならではの“完熟堆肥”です。
吉田さんが使っている堆肥は、いとこの方が営む養豚場から仕入れてた豚糞(トンプン)。
その養豚場では、遺伝子組み換えされていない無農薬のエサが与えられていて、さらに抗生物質を投与しない“無投薬”で育てられています。
その豚糞を、何度も切り返しを行いじっくり1年間かけて堆肥を作っていきます。
この堆肥に、アサリの仲買業を営むお母様のご実家から仕入れたアサリの殻や、もみ殻を投入して、吉田園さんの土のかなめになる“完熟堆肥”が完成します。
間近で見せてもらいましたが、驚くほど柔らかく、完全に無臭。本当に“土”を触っている感覚でした。
こだわり抜いて作られた堆肥が使われた畑には、春の七草でも知られる“ハコベ(ハコベラ)”が生えていました。
実はこれは、とてもすごい事なのだそうです。
土壌のバランスが良くないと、野菜とハコベラは共存しない。つまり共存しているのは、バランスが取れた“良い土壌”である証拠なんだとか。
実際に土壌マイスターが吉田さんの畑にくると驚かれるそうです。
仲間ができたことが、ブランディングのきっかけに。
今でこそ、手間をかけた分だけの価格でも、購入してもらえるようになった吉田さん。しかし野菜の農業を始めたころは、なかなかそうはいかなかったと言います。
無農薬で育てる事は、本当に手間がかかる事。ニラの硝酸塩の数値が低い事も、とても価値のあるすごい事。
でも、直売所に持っていても、価格競争ばかりでなかなか価値に見合った価格で販売する事が叶いませんでした。
しかし、6次産業推進人材育成という、国が推進する事業に参加したことをきっかけに、状況が少しずつ変化していきます。色んな分野の人と出会い「仲間ができた」と吉田さんは言います。
ブランディングや六次産業化のアドバイスをもらったり、飲食の人と繋がって野菜を使ってもらえるようになったり。少しずつ価値を受け入れてもらえるようになったのです。
今では、著名人にも利用されるほど、吉田さんの野菜の魅力が多くの人に受け入れられるようになりました。
“農業”を心から楽しんでおられる、生粋の農家さん
やりがいを伺ったところ、やっぱり一番は『おいしい』という言葉だと吉田さんは言います。
野菜嫌いのお子さんが“吉田園”という言葉を使うと野菜を食べてくれるから『吉田園マジック』という言葉があるんだよとか、
主人がここの大根だったら食べてくれる!とか、そんな話をたくさん聞くそうです。
もう一つ嬉しい事があるそうです。それは、ギフトとして注文を受ける事。
『自分が食べる以外に、ここの野菜を味わってほしいとお金を払ってくれていることが、うちを信用してくれているんだなぁと、とても嬉しくなって』と吉田さん。
手間暇惜しまずにできるのは、本当に農業を楽しんでいるから。
『こんなに楽しい仕事はないなぁとおもいますけどねぇ。』
取材の後半、吉田さんがふいに言った言葉。
コロナをきっかけに、個人宅配を始めた吉田さん。
ひとりひとり丁寧にメールで注文のやり取りをして、詰め合わせには手書きのメッセージを添えているそうです。
昔に習っていたという書道五段の腕を活かして、気持ちを込めて。
個人宅配の詰め合わせには、今までの人生でやってきた結果が全て集約されているのが嬉しいと、吉田さんは言います。
『自分が毎日時間をかけたことが、直接お客さんにおいしいだとか喜んでもらえてるっていうのが直接返ってくるから。自分のやってることが、人に喜ばれることなんだなぁって思うともう最高に楽しいなって思う。経営的には全然ダメなんですけどね』
ただでさえ手間のかかる無農薬の農業。それに加えてこうした手間暇をかけられるのは、本当に“農家”というお仕事を楽しんでおられるからなのだと感じた言葉でした。
(訪問日 2021/03 /02 撮影・文 太田萌子)