『南アルプスの麓で育つ無農薬の高原野菜。長野県中川村で有機農業を営む大島さんを訪問』

生産者インタビュー

南アルプスに囲まれた美しい高原

長野県上伊那郡中川村。「日本で最も美しい村連合(未来に向けて守るべき景観・文化を持つ農山漁村の連合)」にも属する魅力的な村で、無農薬の高原野菜を栽培されている大島さんを訪問しました。松本空港から車で1時間ちょっと。中央アルプスと南アルプスに挟まれた土地で、眼前には雪山の雄大な景色が広がります。(ちなみに日本で一番高い山は富士山ですが、二番目に高い山は南アルプスの北岳なのです。)

日中は意外と温暖で、寒暖差により美味しい野菜が出来る!?

大島さんの畑が有るのは大体標高600mほどの高原エリア。日中の気候は意外と?温暖で、この日はココノミがある神戸と変わらない位でした。ただ朝晩は一気に氷点下まで冷え込むようで、この寒暖差も美味しい高原野菜が出来る秘訣の一つかもしれません。

大学在学中から有機農業や無農薬野菜を研究

旦那様の太郎さんは、この中川村の兼業農家の出身です。当時から農薬のニオイが苦手で、環境についての問題意識から、大学では残飯を有機肥料としてリサイクルする方法などを学ばれていたそうです。在学中からご自身で無農薬野菜を作ったり、タイに留学してフィールドワークに努められたり、非常に研究熱心なご性格だったそうです。

有機農業の先駆者たちの元で修行を重ねる

大学卒業後に北海道北部(旭川よりも少し北)の士別市で農畜複合農業を営む農園に就業し、有機農業の基礎を学ばれたそうです。その後は一転して温暖な土地、愛媛県で無農薬のミカンやなど柑橘類をおもに栽培する地域コミュニティ一体型農園に移られ、野菜部門の農場長として活躍をされていらっしゃいました。

就業先の農園で出会い、ご結婚。中川村で自分の農園をスタート

実は奥様の歩さんが新卒で入社したのも、この愛媛の農園。ここでお二人が出会われご結婚に至ります。その頃丁度、太郎さんが ご両親のケアと自身の農園を開業することを目的に地元中川村に戻られることを決意。2004年に個人でスタート、2010年に法人化、今では地域を代表する農園として従業員10名の方と共に美味しい高原野菜を無農薬で安定的に栽培、出荷されています。

地域、社会、環境。自然体で考えるエシカルな暮らし

さて、本日の取材はまず歩さんから。ランチの機会を頂戴しました。歩さんは鎌倉のご出身。ご結婚後に中川村へ移り以後農園を支えていらっしゃいます。
実は取材をしていて中川村の大きな魅力と感じたのが、エシカルな意識を持つ移住者の方々。この美しい高原に惹かれ都会から移住する方が多く、その方々の感性が村と上手く調和することで独自の文化を形成しているように感じました。

インタビューは地元で人気のスパイスカレー店で

今回のランチのお店も移住(Uターン)組。大阪で修行をされた店主が営む本格的な大阪スパイスカレーのお店でお話を伺いました。大島さんの無農薬野菜をはじめ、こだわりの野菜をふんだんに使用されていて、とても美味しかったです。大好きな大阪スパイスカレーをまさか長野で、しかも新鮮で美味しい野菜盛り沢山バージョンで食べられるとは・・・!


歩さんはとても朗らかでチャーミングで、それでいてしっかり芯が有りパワフルな推進力を持つ方。自らの農園経営は勿論のこと、地域、ひいては社会や地球環境にとって良いこと・幸せに繋がることに力を注ぎたいという意思を強く感じました。

築160年の古民家を地域の交流拠点に

例えば村内のご友人の家で所有されている築160年の古民家を未来へ受け継がせるプロジェクトを推進されています。味噌仕込み体験や昔の暮らしの宿泊体験、更には今後の展望としてワーケーションの拠点にするなど、自分たちや地域の人々がワクワク出来て・新鮮な視点や感性を持つ外部の方との接点となるような仕掛けを計画されています。

自分の手でつくる、という事で気付く価値

歩さんが重視しているのが『つくる』という行動。
「農業も勿論。でもそれだけじゃくなくて、家庭で料理をすること、里山の手入れをしたり、その資源を活用して暮らしの道具を自分たちで作ってみたり。自分の手でつくってみることで、当たり前だと思っていたことの有難さや大切さに気付くんです。」

地域の心がひとつになった、和火プロジェクト

物理的なことだけではなく、体験をつくる、文化をつくるということも。この古民家に樹齢300年のかやの木が植わっていたのですが、残念ながら老衰により寿命を迎えてしまったそうです。昔から『家の東にかやの木を植えろ』と言われていたようで、300年前のご先祖様が子孫の為に植えて下さり、長らく家を見守ってくれた大切な木。感謝、鎮魂を込めておくりたいという想いで、友人と共に木の一部を和火(鎮魂の意味を持つ、日本古来の花火)の原料にして打ち上げるプロジェクトを実行されました。
「もう、大感動。ご先祖様の心意気や、このかやの木の歴史、家を守り続けてくれたことへの感謝。300年先にむけて、私たちはこの村の美しい自然、里山を残していこう!という力強い気持ちになりました。」
和火は、村の方たちに大変喜んでいただいたとのことで、このコロナ禍で鬱蒼とした気をどこか晴らしてくれたことでしょう。

品質と収穫量の両立が課題の無農薬野菜

農薬や化学肥料を使わないことによる安全性や地球環境への優しさなどから支持をされる、無農薬野菜。その弱点として指摘される一つが、収穫量の少なさです。また、農薬を使わない分虫食いなどが発生しやすかったり、雑草の処理などに人手が掛かったり。実際の農場経営には多くの壁が存在するのが実情です。

ハウス栽培と露地栽培の併用など、現在も創意工夫を重ねる大島さん

大島さんも勿論これらの壁にぶつかって来られましたが、有機農業の先駆者から学んで来られた知見や独立以後の試行錯誤の結果により品質・収穫安定性・経営効率が優れたバランスで成り立つようになったそうです。
取材を通じて感じた事のひとつが、ハウス栽培と露地栽培の上手な使い分け。野菜の特性に合わせた栽培環境を整えることで、安定して美味しい野菜を出荷されています。

山の天然水で育つ、高原レタスたち

水源は自家汲み上げの地下水。タンクに貯めて、ハウスや露地の畑に供給しています。山の天然水で育つというのも美味しさの一因かもしれません。

見た目も美しく、味も抜群のハンサムレタスやパリレタス

ココノミでも大人気(かつ、私も大好きな)のハンサムレタスやパリレタスなど葉物はハウス栽培が中心。ハウス内はやはり栽培環境をコントロールしやすいようで、味も見た目も重視される葉物野菜を作るのに適しているようです。ハウスによって苗を植える時期を変えることにより、安定的な生産を可能にしています。苗を植えたばかりのハウスも見せて頂きましたが、定番の品に加えて赤色の野菜なども植わっていて、まるでパッチワークのようでした。

露地で育ち、旨味と甘味がギュッと詰まったなべちゃんネギ

ネギや大根などは露地栽培が中心。特になべちゃんネギは一押しで、その名の通り是非鍋料理で召し上がって頂きたいです。旨味と甘味がギュッと詰まっていて柔らかく、ネギ特有の嫌な臭いも感じられず、絶品です。露地の場合は自然環境の影響も受けやすいので外見はどうしても野性的になりがちですが、味は抜群!

寒さでグッと甘く、美味しくなる縮みほうれん草も露地栽培

寒さで抜群に美味しくなる、縮みほうれん草も露地野菜。こちらもハウス物に比べると外見は野性的ですが、甘くて最高に美味しいので是非お試し頂きたい一品。おひたしなどシンプルな料理が最高のご馳走に変身します。

環境再生型農業など、地球環境との共存を

笑顔が絶えず行動派の歩さんと、研究熱心で一歩一歩確実に進む、太郎さん。ご夫婦の絶妙なバランスがとても素敵に映りました。現在は新たな試みとして環境再生型農業に注目されているようで、一部の畑では実験的に試みていらっしゃるようです。
*環境再生型農業(リジェネラティブ・オーガニック)とはアウトドアブランドのパタゴニアなども推進している農法で、現状明確な定義は無いもののCO2削減等、地球温暖化や気候変動を抑制することを志す農法です。無農薬・無化学肥料という所から更に一歩進み、地球環境に配慮した土壌づくりや空気中の栄養素の活用など、様々な試みが進んでいます。
農園の成長だけではなく、地域や地球環境との共存・共栄を志す大島さん。地球にとっても人にとっても幸せな状態を目指して活動して行く姿に今後も注目です。

(番外編)仲良しのパン屋さんで作戦会議

農園での取材を終え向かったのは、ご近所でパン屋を営む『こねり』さん。私が「気になる!」という話をしたら歩さんがお友達だったようで、ご紹介頂きました。

人参やフルーツの酵母、自家製の自然栽培小麦や米粉でつくるパンが絶品

こちらでは大島さんの人参を始めとした野菜やフルーツを酵母として使用されています。原料の小麦と米も無農薬(自然栽培)で自家生産されるこだわりぶり。スペルト小麦という7,000年以上前から(諸説あり)栽培されていたという、古代小麦を使ったパンや、米粉を使ったカンパーニュなどが大人気。こちらの店主ご夫婦も移住組で、元はデザイン関係の仕事をされていたそうです。

地域内で面白いコラボレーションが続々と

この記事ではまだ詳細をお伝え出来ませんが、お互いの構想についての作戦会議をさせて頂きました。地域や社会、地球環境について共通認識を持つ方々のコラボレーションが地域内で生まれ、協力し合って面白い商品が出来たら、とても素敵ですね。このようなコミュニティの存在も中川村の大きな魅力に感じます。

中川村は旅行先としても是非オススメしたい、素敵な場所でした!

(訪問日 2021/12/09 文・撮影 石井昭裕)

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